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持続可能なゲーム産業は、どのようにつくられるのか?

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  • 11 分前
  • 読了時間: 16分

~ GameFounders共同創業者Kadri Härma氏に聞く、ゲームエコシステム構築 ~



ゲーム産業を育てるには何が必要なのか

EnFiは政府がゲーム産業の成長を支援する動きに注目してきました。前回のニュースレターでは、日本を含む世界各国がなぜゲームを戦略産業として捉え、イノベーションや経済成長を生み出す分野として重視し始めているのかを取り上げました。直近では、EnFiの代表パートナーである垣屋美智子が地方経済の活性化を目指して設立された、自民党の「地域未来議員連盟」設立総会に登壇しました。


政府の関心が「ゲーム産業を支援するべきか」から「どのように持続可能な形で育てていくか」へと移りつつある中、新たな問いが生まれています。


成長し続けるゲームエコシステムを築くためには、実際に何が必要なのでしょうか。


この問いについて考えるため、私たちは2012年から世界各国の政府と連携し、ゲームエコシステムの構築に取り組んできたGameFoundersに話を聞きました。GameFoundersは、エストニア、マレーシア、サウジアラビアでアクセラレータープログラムを実施し、29カ国100社以上のスタジオを支援してきました。同時に、各国政府による地域人材の育成、業界ネットワークの強化、持続可能なゲームエコシステムの形成にも貢献しています。


今回お話を伺ったのは、GameFounders共同創業者のKadri Härma氏です。ゲームスタジオ、投資家、大学、政府と10年以上にわたって関わってきた経験をもとに、アクセラレータープログラムが個々のスタートアップの成功だけでなく、産業全体の長期的な発展にどのように貢献できるのかについて貴重な知見を共有していただきました。



Part 1: なぜ今、政府はゲーム産業に注目するのか


ーーなぜ政府は今、ゲーム産業の育成に力を入れているのでしょうか?


私の視点ではGameFoundersを設立した2012年当時、ヨーロッパやアメリカといった地域でゲーム産業に対する見方は決して良いものではありませんでした。ゲームは「子どもの遊び」というイメージが強く、収益を生み出す産業とは考えられていなかったのです。


しかし、2012年頃にFree-to-Play(基本プレイ無料)モデルが登場し、市場が大きく広がったことで、その認識は大きく変わりました。ゲームは単なる娯楽ではなく、世界中で大きな利益を生み出す産業として認識されるようになり、子どもたちが「将来ゲーム開発者になりたい」と夢見る職業にもなりました。

こうした変化を受け、各国政府もゲーム産業を、利益を生み出し経済成長を牽引できる産業として捉えるようになっています。



ーーなぜ政府はさまざまな支援策の中でもアクセラレータープログラムを選択しているのでしょうか?


私はアクセラレーターモデルは国や地域のゲームエコシステムをゼロから構築する上で、最も効果的な手法の一つだと考えています。


GameFoundersのアクセラレータープログラムは通常3か月間にわたり実施されます。参加するインディースタジオにはメンタリングや実践的なトレーニング、業界の専門家によるアドバイス、パートナーシップの機会、ネットワーキング、そしてシード投資の機会と、最大限成長できる環境を提供しています。


さらにこのプログラムが政府に好まれる理由は、そのインパクトがプログラム参加企業だけにとどまらないからです。GameFoundersではアクセラレータープログラムに参加するスタジオへの支援に加え、近隣の大学とも連携しています。メンターによる特別講義の実施や、参加スタジオでのインターンシップの機会提供を通じて、学生が実践的な経験を積む機会を提供しています。


このようにゲーム開発者、学生、メンター、そして地域の教育機関をつなぐことで、アクセラレーターは一部の企業を支援するだけでなく、地域のゲーム産業全体を支えるエコシステムそのものを育てる役割を果たしています。


このアプローチの経済的な効果はすでに証明されています。フィンランド発のモバイルゲーム開発会社、Supercellは創業初期に政府から約40万ユーロ(現在のレートで約7,400万円)の融資を受けましたが、そのわずか2年後には国内有数の納税企業へと成長しました。


このような成功事例があるからこそ、各国政府はゲームアクセラレーターを単なるスタートアップ支援プログラムではなく、長期的な経済成長を実現するための投資として捉えるようになっているのです。



Part 2: ゲーム開発にとどまらない、持続可能なゲームスタジオを育てるには


ーー有望なゲームスタジオの持続可能なビジネスへの成長を妨げる最大の課題はなんでしょうか。また、GameFoundersはその課題に対してどのような支援を行っているのでしょうか?


私たちが支援する創業者の多くは、初めてゲーム業界で起業する人たちです。ゲームへの情熱は非常に強く、「面白いゲームを作りたい」という強い思いがあるものの、ゲーム業界でのビジネスの知識や経験は十分ではないケースが少なくありません。


その結果、高い評価を受けるゲームを開発しても、十分な収益を上げられないスタジオが数多く存在します。ビジネスモデルが確立されていなければ、次のゲームを開発するための資金を確保することも、スタジオを成長させることもできません。さらに、政府の立場から見ても、十分な経済的リターンが期待できなければ、継続的に投資にする理由を失ってしまいます。


そこでGameFoundersでは、ゲーム開発だけでなく、ビジネス面についても幅広く支援しています。マネタイズ設計やゲームプレイとのバランス、ストーリーの進行設計、市場ごとに最適化したGo-to-Market戦略、ユーザー獲得(UA)の考え方、さらにはSteamでのリリース戦略まで、実践的なアドバイスを提供しています。


AIの登場によってゲーム開発そのもののハードルは以前よりも下がりました。しかし、ビジネスとして成功させるためには、依然として豊富な業界知識や専門家の支援が欠かせません。だからこそGameFoundersでは、チームがビジネス面にも自信を持って取り組めるよう、開発と同様にビジネス支援にも力を入れています。



ーーアクセラレータープログラムの幅広い支援の中で、創業者にとって、最も価値があるものはなんだと考えていますか?


最も価値があるのはお金でも、トレーニングでもありません。ネットワークです。


GameFoundersのプログラムには世界中からインディースタジオとメンターが集まります。こうしたグローバルなネットワークにアクセスできることは、私たちが提供できる最も大きな価値の一つだと考えています。


もう一つ重要なのは、参加スタジオ同士のつながりです。アクセラレータープログラムでは、およそ10社のインディースタジオが約3か月間、共にプログラムに参加します。多くは同じような成長フェーズにあり、直面する課題も共通しています。だからこそ、それぞれが持つ知見や経験を共有し、お互いに学び合うことができます。あるチームが経験した失敗や成功が、別のチームの課題解決につながることも少なくありません。言い換えれば、参加者同士がお互いのメンターとなり、ともに成長していく環境が生まれているのです。



ーーアクセラレータープログラムの成功は、どのように測るのでしょうか?


成功の定義は、誰の立場で見るかによって異なります。


投資を伴うアクセラレータープログラムであれば、投資リターンは重要な指標の一つです。例えば、エストニアでのプログラムで運営したGameFoundersのファンドでは、6.5倍の投資リターンを実現しました。これはアクセラレーターが単なる支援活動ではなく、投資家にとっても経済的価値を生み出す仕組みであることを示しています。


一方、サウジアラビアでのプログラムでは、参加スタジオへの投資は行いませんでした。この場合、成功はビジネス成果によって評価が可能です。実際に参加チームの約3分の1が世界的なパブリッシャーとの契約を獲得するという成果を残しました。


また、参加スタジオにとっての成功とは、持続可能なビジネスを築き、売上を伸ばし、新たなゲームを継続して開発できる状態になることだと言えます。


そして、私自身が他に大切にしている指標が、コミュニティの形成です。プログラム終了後も多くの卒業生がつながりを維持し、中には次世代のゲーム創業者を支えるメンターとして、プログラムに戻ってきてくれる人もいます。それこそが、アクセラレータープログラムが長期的な価値を生み出している証だと考えています。



ーー成功している卒業生にはどのような共通点がありますか?


プログラムの過程で最も大きく変化するのは、ゲームそのものではなく、創業者のマインドセットだと思います。アクセラレータープログラムを通じて創業者はビジネスへの理解を深め、業界とのネットワークを築き、「自分たちにも成功できる」という自信を身につけていきます。


私が特に印象に残っているのは、ハンガリーのあるチームです。彼らはGameFoundersの応募締切のわずか2週間前に結成され、まだ初期のアイデアしかない状態でプログラムに参加しました。その後開発は思うようにいかず、チームは解散し、一度は創業者が一人だけ残る状況になりました。それでも彼は諦めることなく、ゲーム・ビジネスの改善を続けました。そして約8年後、その会社は大きな成功を収めます。かつてのメンバーも再び集まり、会社は大きく成長し、最終的にはGameFounders史上最大規模のイグジット(事業売却)を実現しました。


私たちと創業者との関係は、アクセラレータープログラムの終了とともに終わるわけではありません。卒業後も、M&Aに関するアドバイスや専門家の紹介、重要な経営判断への助言などを通じて、株主として長期的に伴走を続けています。



Part 3: スタートアップだけでなく、エコシステムを育てる


ーー創業者への支援にとどまらず、ゲームアクセラレータープログラムは地域経済や出資する政府にどのような価値をもたらすのでしょうか?


GameFoundersのアクセラレータープログラムは、いわば小さなゲームエコシステムをつくる取り組みです。私たちは、いかなる国や地域でプログラムを実施する場合でも、大学、政府、業界団体、地域コミュニティと密接に連携し、参加スタートアップだけにとどまらない長期的な価値の創出を目指しています。


大学は、そのエコシステムを構成する上で重要な存在です。マレーシアでのプログラムでは「大学パートナープログラム」を立ち上げ、海外から参加したメンターが大学を訪問し、ゲーム関連分野を学ぶ学生に向けて特別講義を行いました。多くの学生にとって、世界的に成功したゲームの開発者と直接会い、質問できる初めての機会となりました。また、大学生を参加スタジオのインターンとして受け入れ、創業者やメンターから学びながら、実際のゲーム開発を経験できる機会も提供しました。


地域の学校とも連携し、子どもたちを招いてゲームを試遊してもらい、フィードバックを集める取り組みも行いました。スタジオ側はプレイテストの実施方法を学ぶことができ、子どもたちはゲーム産業の舞台裏に触れることができます。こうした経験を通じて、ゲームは単なる娯楽ではなく、将来の職業にもなり得る産業であること、更にプログラマー以外にもマーケティングや品質保証など、ゲーム業界のさまざまな仕事についても知ってもらう機会を作っています。


私たちの取り組みは、政府やより広い産業エコシステムにも及びます。マレーシアでは、現在では世界各国から参加者が集まる東南アジア有数のゲーム開発者向けカンファレンスへと成長した「Level Up KL」の立ち上げを支援しました。


エストニアでは、参加者の75%が海外から訪れるカンファレンスの成長を支援し、地域への経済効果と新たな国際的ネットワークの創出につなげました。


学生、創業者、メンター、政府、業界関係者を結びつけることで、各国にもたらす価値を最大化し、持続可能なゲームエコシステムをゼロから築いていくことを目指しています。



Part 4: 持続可能なゲームエコシステムを築くために必要なこと


ーーゲーム産業の発展に成功した地域と、思うように成長できなかった地域を分ける要因はなんでしょうか?


成功するゲームエコシステムを築く上で、最も重要な要素の一つは政府による継続的な支援です。そしてその代表例がフィンランドです。


20年以上前、フィンランド政府は小規模な助成金によるゲーム産業支援を始めました。すると、次第に多くのプロトタイプが生まれ、それに関心を持った世界のパブリッシャーがフィンランドに注目し始めました。さらにスタジオが成長していくにつれて、政府の支援も進化し、その時々の業界のニーズに応じた支援へと広がっていきました。重要なのは業界が成長したからといって政府が支援を止めなかったことです。政府は現場の声に耳を傾けながら、業界の成長段階に合わせて支援の内容を柔軟に変更しながら対応してきました。


その結果、現在のフィンランドには世界有数のゲームコミュニティが形成されています。定期的に開催されるコミュニティイベントでは、ゲーム開発を目指す人たちが、経験豊富な創業者や業界の専門家と出会い、知見やフィードバックを得ることができます。


こうした互いに学び、支え合う文化はフィンランドのゲームエコシステムを象徴する大きな強みとなっています。そして私は、この文化が根付いた背景には、政府による長期的で一貫した支援があったからこそだと考えています。



ーー政府がゲーム産業やゲームエコシステムを育成したいと考えた時、最も効果的なアプローチはなんでしょうか?


すべての国に当てはまる万能な方法はありません。最適なアプローチは、それぞれの国が置かれている状況によって異なります。


その中で私がまず注目するのは、その国にどれだけ優秀な人材がいるか、そして人材の層がどれほど厚いかという点です。すでに十分な人材が育っているのであれば、アクセラレータープログラムは新しいゲームスタジオの成長を後押しする非常に効果的な手段になります。一方で、ゲームエコシステムがまだ発展途上の段階であれば、まずは大学と連携し、将来の人材を育成する実践的なプログラムづくりから始めることがより必要となります。


アクセラレータープログラムは、ゲームエコシステムの中心的な存在になり得ます。しかし、その効果を最大限に発揮するためには、それを支える土台が整っていることが欠かせません。


例えばサウジアラビアでは、応募対象をサウジアラビアの創業者に限定しました。当時はまだゲームエコシステムが発展途上だったため、まずは6か月間のインキュベータープログラムを実施し、人材育成に取り組んだ上でアクセラレータープログラムを開始しました。


一方、エストニアやマレーシアのプログラムでは世界中から応募を受け付けていたため、初期段階では国内人材の層の厚みにそれほど左右されませんでした。とはいえ、長期的には地域の人材こそがゲームエコシステムの成長を支える最も重要な基盤となります。海外企業が新たな国へ進出する際には、事業の拡大に合わせて優秀な人材を採用できるかどうかを重視します。そのため、スタートアップを支援することと同様に、人材を継続的に育成する仕組みを築くことも重要なのです。



Part 5: ゲーム業界の未来


ーー現在のゲーム業界で、最も注目している変化は何でしょうか?


2012年前後には新しいビジネスモデルやデジタル配信、そしてソーシャルメディアの普及によって、ゲームの開発や販売のあり方が大きく変わりました。私は現在、AIがそれに匹敵するほど大きな変革をもたらしていると考えています。


AIの登場によって、ゲーム開発のハードルはこれまでになく低くなりました。さまざまなAIツールが利用できるようになったことで、ゲームをつくること自体は格段に容易になっています。その一方で、市場に投入されるゲームの数も急速に増えています。その結果、優れたゲームであっても、ユーザーに見つけてもらうことが以前にも増して難しくなっています。


こうした変化を受けて、私たちGameFoundersもスタジオをどのように支援すべきかを改めて考えています。これまではゲームそのものの開発支援が中心でしたが、これからはゲームを市場で成功させるための支援がより重要になると考えています。開発のハードルが下がるほど、課題となるのはGo-to-Market戦略やコミュニティづくり、そして競争が激化する市場の中でプレイヤーにゲームを届けることです。今後はそうした分野への支援にも、これまで以上に力を入れていきたいと考えています。



ーー今後5年間でゲーム業界はどのように変化していくと考えていますか?


ゲーム業界のさらなる発展を心から願っています!


一方で、この5年間でゲーム業界の競争はさらに激しくなると考えています。AIによってゲーム開発のハードルが下がり続ければ、市場にはこれまで以上に多くのゲームが登場し、スタジオが埋もれずに存在感を示すことはますます難しくなるでしょう。


私は、いずれ市場は飽和状態に近づくと考えています。そのときには、現在のビジネスモデルやゲームスタイルが増え続ける状況は限界を迎えるか、あるいは新しいビジネスモデルや流通チャンネルが生まれ、業界そのものが次のステージへ進化していく必要があります。


現在でもゲームの認知度の向上はゲーム開発者にとって最大の課題の一つです。プラットフォームのアルゴリズムは絶えず変化しており、開発者はその影響を大きく受けています。


もちろん、業界がこれからどのように変化していくかを正確に予測することはできません。しかし、業界のサイクルを理解している経験豊富な開発者は、その変化に適応し、新たなチャンスを見つけ続けていくでしょう。結局のところ、未来をつくるのはテクノロジーではなく、人です。 私は、次のイノベーションを生み出すのも、そうした人たちだと信じています。



ーーAIの普及によって、現代のゲームスタジオに求められるスキルや考え方、支援はどのように変わりましたか?


AIは新しいゲームスタジオが成功するために必要な条件を大きく変えました。今ではAIを活用できなければ、開発スピードの面で競争に遅れを取ってしまいます。 AIを効果的に活用するスタジオは、より短期間でゲームを開発し、高い生産性で開発を進められるため、大きな競争優位性を持つことができます。


しかし、効率性だけで成功できるわけではありません。AIによって開発を加速させることはできますが、本当に優れたスタジオを生み出すのは、創造性です。最終的に成功するのは、AIのスピードや効率を最大限に活用しながらも、独自のアイデアや創造的な発想を生み出せる企業だと考えています。



エコシステムを育てるという視点


今回のインタビューを通して、Kadri氏の個々のゲームスタジオの成功以上を見据えている視点のお話を聞くことができました。


GameFoundersでの取り組みから見えてきたのは、持続可能なゲーム産業を育てるためには、優れたゲームを生み出すスタジオを支援するだけでは十分ではないということです。人材、知識、ネットワーク、そしてそれらを支えるエコシステム全体へ、長期的に投資し続けることが欠かせません。


この10年以上、GameFoundersはスタートアップだけでなく、大学、投資家、政府など、多様なステークホルダーと連携しながら、各国のゲーム産業の発展を支えてきました。その取り組みは、アクセラレータープログラムが単なるスタートアップ支援ではなく、人材・知識・機会を結びつけ、産業全体を成長させる基盤になり得ることを示しています。


日本をはじめ、ゲーム産業を戦略産業として位置付ける国が増える中、これから問われるのは、有望なスタジオを支援する方法だけではありません。イノベーションが継続的に生まれる環境をどのように築いていくかが重要になります。


Kadri氏の言葉が示しているのは持続可能な産業は、企業への投資だけでは生まれないということです。企業を支える人材やコミュニティ、そしてエコシステム全体への継続的な取り組みがあってこそ、産業は長期的に発展していくのではないでしょうか。

 
 
 

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